空はどこまでも蒼い。



 暖かな光の降り注ぐ中、

 漆黒の瓦の上ですやすやと気持ち良さそうに眠るの隣り。

 そこはとても居心地が良くて気持ちが良いのだけれども…



 「こんなに日が照ってると日焼けしちゃうよ…。」

























出来心の遊び心



























 陰陽殿のあの巨大な建物の上。

 はよくここの屋根に登っては昼寝をする。

 何故陰陽殿かというとこの静かさが昼寝にピッタリなのだ。

 いつもの様にゴロンと横になると日頃の疲れの所為か、

 うたた寝のつもりが何時の間にか熟睡してしまった。





 「…あちゃぁ、よく寝ちゃったなぁ…。」



 腕を空へ向けて大きく伸びをする。

 ほんの三十分のつもりが目を覚ましたときには一時間を大幅に過ぎてしまった。



 この後辰伶に呼び出しを受けていた事を思い出しては急いで飛び起きる。

 そのまま屋根を蹴って地面に降り立つと、ある事に気が付いた。

 恐る恐る腰に手を伸ばして確認してみたが間違いない。



 ――命の次に大切なあの剣が無くなっていた。



 「……!!け、警察に連絡しなくちゃ!!」










  □ 証言者 その一






 「辰伶、丁度いいところにいたね。」



 いつまでたってもやって来ないに嫌気が差していたころ、

 後ろからいつもの含み笑いと共に辰伶は声をかけられる。




 「…時人様!」

 「早速だけど辰伶、接着剤持ってない?」

 「はぁ?…接着剤ですか?」



 そうっとにっこり微笑む時人に何故そんな物が必要なのか疑問に思いつつ、

 訊いてはいけないような気配だったので手身近にあったボンドを差し出す。



 「…これしかありませんが…。」

 「あぁ、いいよ。本当にくっ付いちゃったら大変だからね。」

 「…えっ?!」





 意味深な言葉を残し足早に辰伶の元を離れていく後姿を

 辰伶は首を傾げながら見送った。






   ……それから遅れる事数分。






 激しい地響きと共に渦を巻き吹き荒れる風がやってきた。



 「しっ辰伶、辰伶!!大変だよ!!警察が来て私の命が二の次に!!」

 「…とりあえず、落ちつけ。」

 「私十分落ちついてるよっ!」

 「…まぁ、これでも飲んで一息入れたらどうだ?」



 と辰伶が差し出した湯飲みをとり、一気に飲み干すとはまたしても早口に



 「だから剣が無くなっちゃったのっ!」

 「…最初は一体何を言おうとしていたんだ?」





 確かにの腰のあたりを見るといつもきちんと鞘に収まっている剣が鞘ごと消えている。

 必死になって探し回ったのだろう。の額には汗が浮き出ている。





 「辰伶、剣をどっかで見かけたりしなかった?」

 「いや、特に見ていないな。」

 「んじゃ不審人物は?」



 どんどん身を乗り出して辰伶にたたみかけるに新鮮さを感じつつも

 辰伶は生真面目に質問に対して答えていく。





 「そういえばさっき時人様が探し物をしてこの辺にいたな…。昼間なのに珍しい。」

 「それだ!」





 最初の手掛かりなのかムキになって辰伶の肩を掴み

 前後に激しく揺さぶりながらさらに問いかける。



 「時人はどっちにいったの?!」

 「…あ、あっちだ。」

 「ありがとう!!」





 ガクガク揺さぶられつつも弱々しく上げた手の指すほうを確認すると

 また慌しく駆け出していってしまった。



 「…何時になく必死だなぁ、。」



 ポツリとそう呟いた後になって辰伶は重大なことを思い出した。



 「って!今日はお前この前の騒ぎの始末書を提出する日だろ!」



 だがその声はに届く事はなかった。









  □ 証言者 そのニ





 「あぁー面白くねぇー。退屈だー。」

 「……自分から誘ったんじゃないですか…。」

 「負けるのは俺の性にあわねえのっ。」





 碁盤を足で遠ざけながら遊庵が愚痴る。

 退屈凌ぎにひしぎを誘って碁に挑戦してみたものの

 こうもあっさり打ち負かされては悔しさ通り越して空しくなる。



 ゴロっと廊下に寝転がって日除けの屋根と青い空を見上げる。

 そんな絶不調な遊庵の元に顔見知りの誰かさんが近づいてきた。





 「うわぁ〜…パッと見ただけでどっちが勝ったか分かっちゃうね。」

 「てめえ…。」



 時人が碁盤を覗き込んで遊庵を皮肉が半分混じった同情の眼差しで見下ろす。

 が、今度は向きを変えてボンド右手に、



 「ひしぎさん、ペンか何かない?」



 と左手をひしぎの方へ差し出す。





 「…油性ですか?」

 「いや、油性だと泣くかもしれないから水性で。」

 「…ではこれを。」





 今まで何も持っていなかったはずのひしぎ手に何時の間にか赤色のサインペンが握られている。

 それを時人が受け取ると遊庵がクルっと時人の方へ向きを変えて尋ねる。



 「…一体それ何に使うんだよ?」

 「ふふ、秘密。」





 意味深な笑みを残し、やはり足早にそこを後にした。





 「…なぁ、ひしぎ今度は将棋やらねぇ?」

 「……受けてたちますよ…」






   …そして数分が過ぎ…






 「…!!なんか時人の気配を感じる!」



 日差しがサンサンと降り注ぐ廊下を一目散に駆け抜けながら

 は微かな気配を頼りに廊下を勢いそのまま右に曲がる。





 「……王手ですね…」

 「やべー!オレの王将がぁ!」

 「うわっ!危な…っ!!」





 前方不注意で突進してきたと頭を抱えて活路を見出そうとしていた遊庵は

 互いを確認したと同時に派手にぶつかってしまった。



 遊庵につまづいてそのまま廊下を転がっていく

 中途半端に逃げ様としたことが災いして庭に落ちた遊庵。

 ひしぎ優勢の局面だった将棋板は遊庵と一緒に庭に転がっている。





 「「…痛ーっ!」」



 同時に声を上げた両者はそれでも大した怪我は無く無事の様子。

 一方、将棋板を挟んで向かい側にいたひしぎはちゃっかり部屋の中に非難済み。

 部屋から顔を出してどちらに声をかけるべきかほんの少し逡巡し、



 「…、大丈夫ですか?」

 「はい、ひしぎさんは…何ともなさそうですね。良かった。」

 「オイお前らオレを無視してんじゃねーよ!」





 手身近の将棋の駒を拾い集めながら遊庵が文句を言うが…



 「あ!将棋の対戦中だったんですか?ごめんなさい、ぶち壊しちゃって…。」

 「いえ、いいんですよ。どうせ何をしても遊庵の負けでしたから…。」



 とあっさり無視された。

 遊庵は無視された挙句、お詫びの言葉もまだ受け取ってない。

 どうも今日はついてない日決定である。





 「新手のいじめかよ…。」



 ふーんっといじけて見せる遊庵にようやく二人はなだめに向かう。



 「ごめんね、ゆんゆん。なんか丁度良いところにいたから…。」

 「…よかったじゃないですか。王将取られる寸前で…。」

 「……テメエらそれでなだめてるつもりかよ?」





 未だ不機嫌そうな遊庵だがは急ぎの用事を思い出し、

 遊庵は放っておいてひしぎに事情聴取を始める。



 「そうだ、ひしぎさん!こっちに時人来ませんでした?」

 「…えぇ、来ましたが…。」

 「本当ですか?!で、ホシはどっちにいきました?!」

 「……良くそんな専門用語知ってますね…。」





 感心しつつも丁寧に方角をに教え、

 それを聞くとはまたすぐに駆け出していってしまった。





 「…慌しいですね…。」



 いつもはぽ〜っと散歩でもしている

 髪を振り乱して走り去っていく姿を見てひしぎが率直な意見を述べる。

 そして今まで忘れ去られていた遊庵が将棋の駒を全部拾い終え、



 「…よっし!わかった。」



 世紀の大発明とばかりに手を打ち鳴らす。



 「…何がわかったんです?」

 「福笑いやろうぜひしぎ!これはぜってー負けねー!」



 腕を組んで鼻息も荒くそう言いきった遊庵だが、





 「……あれに勝敗ってあるんですか?」



 とひしぎにあっさり返され言葉に詰る。



 「ほら、だからあれよ!あー、ずれない様に…?」

 「……いい加減負けを認めたらどうです?」



 ひしぎの冷たい一瞥をくらい遊庵にはもう返す言葉が無い。









  □ 証言者 その三





 「う〜んやばいですね〜。なんかトメさんもうダメっぽですよ。」

 「歳子、患者に鞭打ってどうするんですか。」





 危篤患者の脈を計りつつ歳子がぼやくのを歳世がなだめる。



 清潔そうな真っ白のシーツと太陽の光を反射するぴかぴかの床。

 歳子・歳世の仕事部屋である病室は今日も輝いている。

 そこの住人が死にそうだろうとお部屋が綺麗ならそれでよしっと言う事なのだろうか。

 実際のところは誰にも分からないが、

 ここの空間が無駄に綺麗なのは確かである。





 そんな散り一つ無い廊下を誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。

 病室にある見舞い客からの花を花瓶に生ける手を止めて

 歳世はこちらに近づいてくる人の気配に振りかえる。

 まぁ、トメさんの危篤を知った家族だろうと大して気にもとめなかったが、

 その姿を目撃して目を丸くする。





 「…時人様!」

 「ふ〜ん、綺麗な花だね。」

 「あれ〜?!時人様?こんなところへ珍しいですねぇ。」





 脈を計り終え、今度は点滴の交換をしていた歳子も驚きをあらわに声を上げた。

 日の当たるところが嫌いで、まして他人を気遣って見舞いに来るわけでも無し。

 時人にはコトのほか場違いな感じの病室に、ひょっこり顔を出したと思ったら、

 歳世の手元の花を見やってしばらくうーん等と考えこんでいる。





 「ど、どうかしましたか?」

 「うーん。ねぇ、歳世。その花頂戴。」

 「…はぁ?」



 突拍子も無い事を言われて目を白黒させている歳世に構わず、

 もう花は貰うと決め込んだ時人は薔薇やら菊やらを歳世の手から取り上げる。

 そして即席の花束をこしらえるとそれを手に病室の反対側まで行き、

 またそこに飾ってあった花瓶からコスモスやらナデシコやらを奪い取る。





 「「…あの時人様…何をしてるんですか?」」





 呆気にとられていた二人が声をそろえて疑問を投げかけると

 そんなの見て分かるでしょっと微笑む時人。



 「…花束作ってるんじゃん。」


 「「……。」」





 それは見て分かるが、そんな事を言いたいのではなく、

 歳子・歳世が作ったものが混じっているとは言え、

 元々その花達は見舞い客が持ってきた物だから

 歳世の一存であげられるような物ではない。

 それで花束を作るっというのも…



 『…時人様、縁起悪くないですか?』





 色々な考えが歳世の頭の中を過ぎ去ってゆくが時人はどれも気にしてないようだ。

 鼻歌交じりにトメさんの病室を抜け、

 隣りの部屋の花も物色し始めた時人を止める術を二人は持っていなかった。

 今度は大輪のユリの花を抱えて出てきた時人を眺めながら歳世が歳子に問いかける。





 「…歳子、花って確か屋上で栽培してましたよね…?」

 「そういえば、バッチリ咲き乱れてましたよぉ〜。」





 時人の突飛な発言に頭が正常に働かなかったが、考えてみれば屋上に花はたくさんある。

 それで花束を作ったほうが絶対に良いに決まっているのだが、

 両手いっぱいに花を抱えた時人を見て言っても無駄そうだと一人思う。



 ――いや、むしろその事は秘密にしておこう。

 ――なんだかすべて持ち去られそうだ…。



 二人は途方に暮れながら時人を見送った。



 「…上から花を持ってこようか…。」

 「そうしたほうが良さそ〜ですね。」






 こうして歳子と歳世が階段を上って屋上へ行き、

 咲き乱れる花々をハサミで収穫し始めた。





 「一体時人様は何を考えているのやら…。」

 「何も考えてないんじゃないですかぁ〜?」

 「…あの計算高い時人様がそんな事は無いだろう。」

 「じゃぁきっとアレですよぉ、ア・レ。」



 ふふふ〜っと意味深に笑う歳子に歳世は身震いする。

 歳世は時々歳子について行けなくなる。こんな時がまさにそれだ。

 深くは聞くまいっと歳子から目線をそらせると目の端に何か動く物があった。

 改めて振りかえると病院の屋上の柵をを高く越えて飛来してくる人影。

 そして人影は空中でクルリと回転し、そのまま屋上に着地する。





 「よいしょっと。」

 「…っ?!」

 「上の方から話し声が聞こえたから…。」





 五階建ての病棟を事も無げに飛び越えるその脚力に歳世は感心する。



 ――まぁ、風使いののことだから飛んだりも出来るのだろうが…。



 そんな突然の闖入者に目を丸く歳子がに疑問を投げかけるよりも早く、

 こちらから歳子・歳世を質問攻めにする。





 「ねえ、こっちに時人来なかった?」

 「「来ました、今さっき。」」

 「えっ本当?!やっぱりそんな気がしたんだよね…。」





 剣が無くなり、不審人物である時人を追い駆け始めてから結構経つ。

 ちょっとずつではあるが確実に近づいていることを知り嬉しく思っている一方で、

 歳子・歳世の顔が曇ってゆく。





 「「…時人様は何を考えているのか分かりません。」」

 「ど…どうしたの?」



 はぁっと溜め息もピッタリそろっている二人を見てが首をひねる。





 「…病室に飾ってある花を持ち去られました。」

 「それも大量にですよぉ〜?儀式に使うにしても多すぎぃ〜。」

 「……?」



 はぁっとまたしても溜め息を付く二人だが、

 今度は意味合いがちょっと違うような気がした。

 歳世は本当にわからないっと言った感じでしょんぼりしているのだが、

 歳子は遠くを見つめて暗くブツブツ呟き始めた。

 そんな歳子の回りにには黒い影が見えたような見えないような…。

 見てはいけない歳子から目線を慌ててそらすと、

 まだ納得のいかないような顔をしている歳世に突拍子もないことを話しかける。





 「…えっとじゃぁ歳世は被害届はだすの??」

 「………は刑事ドラマが好きなのか?」





 苦笑しながらそういった歳世は首を横に振り『敵に回すと厄介だから』っと届出は出さないらしい。

 何とも恵まれた人である。迷惑かけっぱなしで誰も恨まないとは…。

 その後時人の去って行った方角を聞き、



 「じゃぁ、私が時人に注意しておくよ。」



 と歳世に約束をし時人追跡を再開させた。










  □ 目撃者





 「接着剤はあるし、ペンも借りられたし…」



 大量に掠め取ってきた花束を抱えて時人は今日の成果を指折り数える。



 「花は予想外だったけどこれくらいないとねーっ。」



 とご満悦の様子で細い廊下を歩いていく。

 目指す先はもう決まっている。次の廊下の角を曲がってすぐの座敷。





 「…吃驚するだろうなぁ…ふふふ。」



 手で口元を押さえ、実に楽しそうに笑いながら最後の角を曲がる。

 そんな時人の黒い笑みを遠くで眺めていた人が一人。





 「…あれ…時人?」





 昼寝帰りで屋根の上を歩いていたほたるは如何にも何か企んでそうな時人を目撃する。

 まだ半分ほど眠っている頭を動かしながら、

 時人が曲がっていった廊下の先にある家は誰のだったか思い出そうとする。





 「…んーっと……えっと…。」



 やはり半分しか起きていない頭では思いつかない。

 身近な誰かだったような気はするのだが、





 「…オレの家じゃないし…。」



 日が暮れ始めている空を見上げてまた考えこむ。





 「…あ、…カラス飛んでる……」



 もう興味は失せたのか今度はカラスの数を数え始めた。

 しばらく鳥の数を数えていたが面白くもないので再び地上に目線を戻す。





 「…あ、…。」



 キョロキョロとあたりを見まわしていたはその小さな呼び声に反応してほたるを見つける。





 「あっ、ほたる!」



 軽く助走を付け地面を蹴り、軽やかにほたるの隣りに着地する。

 すると近くでを見ると疲れが色濃く見える。

 ふーっと息をはくと今日何度目かのあの質問を繰り返す。





 「ねぇ、時人見なかった?」

 「見たよ。」





 今日そう問いかけた人達は皆そう言うのに時人に辿り着かない。

 絶対に近づいているはずなのに見つからない。

 何時の間にか目的が時人探しになっているが、

 無くなった剣は時人が持ち去ったとの中では決定事項になっている。

 暗い顔をしているに対してほたるが何か閃いたようだ。





 「…思い出した…。」

 「……何を?」

 「の家だ。」

 「…………ん??」





 ポンっとてを打ち鳴らすとやっとすっきり思い出せたと

 衝撃の事実をに打ち明ける。





 「……時人、の家に行ったよ…。」



  …暫しの沈黙。



 そして――



 「…いけない!へそくりがっ!!!」





 力強く屋根を蹴り全速力で自分の家へと駆け出した。

 の中では時人が剣を持ち去った事は決定事項。

 それ即ち、時人は大泥棒に大決定。










  □ 犯人逮捕





 「コラ!時人!!って……何っこれぇー…!?」



 襖を勢いよく開け放ち入り口に息も切らしながら佇む人影に

 時人は最高の微笑で出迎える。





 「うん、やっぱりその反応だよね。」





 愕然と見開くの瞳に映っているのはあまりにも異質な自分の部屋の光景。



 ――畳には赤い線で丸やら三角形やらくねくねした文字らしき物が書かれ、


 ――その周りには赤い花びらが散りばめられ、


 ――中央の赤い円の真中には小さな台とそれを囲む大輪の花



 そして、その小さな台の上に置かれているのは剣はまさしく…



 「わ、私の……っ。」

 「もうちょっと時間をくれればもっと素敵に出来たのに…残念。」





 もうちょっとでどんなふうに素敵になってしまっていたのか考えるのも怖い。

 ちぇっと小さく舌うちをしてみせる時人だが

 本当に残念がっている様にには見えない。

 むしろ寸でのところで中断された事を喜んでいるような気がしてならない。





 「まぁ、いいや。今日はの面白い顔いっぱい見れたし。」

 「………ぇ?」





 不敵の笑みを絶やさず近づいてくる時人から一歩後退る。

 それにも構わず時人は近づき、とうとうには逃げ場が無くなる。





 「必死に僕を探していたの顔も楽しかったけど、さっきの吃驚している顔も面白かったよ。」

 「まさか……ずっと見てたの…?」

 「だって、必死なって珍しいじゃん。いつも和んでるから…。」

 「……っ!愉快犯を捕獲しますっ!」





 いきなり手刀を繰り出したに事のほか面白そうに時人がそれをかわす。





 「…あれ?怒った?」

 「人がどれだけ苦労して探し回った事かっ!」





 食事もとらずひたすら全速力で探し回ったと言うのにそれを時人は遠くで眺め、楽しんでいた。

 普段あまり怒らないだかこの日は特に疲れていたし、お腹もすいている。

 只でさえ虫の居所が悪いうえに時人があんまりにも楽しそうに笑うから

 はすっかり腹を立ててしまい、暴れ馬のごとく時人に攻撃を加える。



 しかし、ここは太四老。

 普通に攻撃したって中々当たらないのに、

 まして怒りに我を忘れている様じゃ話にもならない。

 そこで時人のかわりに犠牲になっていくのは襖や柱といった動けないもの達である。

 ひょいっと軽くいなされ続け終いに時人はの背後をとる。





 「落ちついてよ。家、壊れちゃうよ?」

 「うぅ〜誰の所為でこんなに怒ってると思ってるの?!」





 背後から肩を掴まれ動くに動けず首だけで後ろを振り返り時人を睨む。





 「そんなに睨んじゃ可愛い顔が台無しだよ。まぁ……。」





 肩を掴んでいた腕を放してかわりにの顎をとる。

 そして時人はそのままを自分のほうへ引きつけ、

 怒りで紅潮している頬に唇を寄せる。





 「怒ってる顔も好きだけど。」

 「ひっ…人を馬鹿にしてっ!」



 今度は別の意味で紅くなっているを見て時人は満足そうに微笑むと、





 「今日は楽しかったよ。僕からのプレゼントも受け取ってね。」



 時人がそう言うやいなや暴走したによって壊された柱が奇怪な音を放ち、

 屋根の重みを支えることはできず次の瞬間、屋根が崩れ落ちてきた。










   ――→ 後日談






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