小高い丘の上に立つ質素だが気品のある城も―― そこから真っ直ぐに伸びる城下へと続く道も―― 鶏の鳴き声や人々の笑い声がするその城下町も―― 今ではすっかり雪景色。 ちらちらと降る小雪が風に舞い、家々からは白い煙が立ち上る冬景色。 暖かな火のともった部屋を抜け出して、は小さな庭に降り立った。 朝起きたら真っ白な雪が目に入り、寒い中散歩に出かける決心をしたところだ。 「…雪風、風花、浚い風…っといったところかな。」 庭に降り注ぐ雪と冷たい風の静かな舞いを見ては風の名前を言い当てる。 するとそれに答えるかのように風と雪がのまわりをふわりと囲む。 どこへ行ってもそうだが風はになつく。 手を差し出せば手のひらの上に小さなつむじ風が起こる。 無理矢理そうさせているわけではなく、自然に風が寄り添う。 逆にが頭の中で思ったことにも風は忠実に従う。 今、に雪はかからない。 浚い風が雪をさらっていき、風花も雪風も穏やかに凪いでいる。 面白がって雪を一箇所だけ固まる様に降らせてみる。 風で流れを変えだんだん縦に長く伸びていく雪の塔を作りながらはある事に気が付いた。 「そう言えば…静かだなぁ……」 うるさい五人組の姿が見えず、声も聞こえない。 首を振って辺りを確認するが雪が高く積もってゆく音以外何も聞こえない。 「今日は……何かあったっけ?」 「今日は何日だ?」 一本のロウソクを取り囲む様にして五人が輪になって座っている。 狭い部屋に五人が座ると余計に狭く感じる。 障子をしめきり外の銀世界とは裏腹にこの部屋の中は薄暗い。 ロウソクの炎がちらちらと揺れるだびに五つの黒い影がざわめく。 「十二月二十五日。」 最初の狂の問いかけにアキラが答える。 重苦しい表情で皆口を閉ざしている。 必要以上に真面目な顔をした狂が紅い眼を一同に向けて告げる。 「今日は聖夜だ。」 皆重々しく頷き狂の続きの言葉を待った。 炎がちらりと揺れる。 「てめえらも好きに暴れて来い!」 「「「「待ってました!!」」」」 この日、十二月二十五日は狂と四聖天が聖夜にかこつけて暴れまわる日だ。 これから新年にかけておのおの好き勝手に過ごす事になっている。 過ぎゆく年を悼んで酒を飲み、来る年を祝って酒を飲む。 この長い忘年会の始まりの日だった。 四聖天の四人はこれからどの様に過ごそうかと目を輝かせて計画を練り始めた。 部屋は相変わらず薄暗いが前よりずっと雰囲気は明るくなった。 ここで車座に座り浮き立つ仲間に狂が釘を刺す。 「おめえらがどう過ごそうが関係ねえが、はオレと一緒に雪見酒だ。」 硬直した四人を尻目に狂は慣れた手つきで煙管に火を付ける。 「手ぇ出すんじゃねーぞ。」 ロウソクが溶けてジリジリと音を立てる。 その後いち早く行動を起こしたのは梵天丸とほたるだった。 「何言ってやがる! にはオレ様のすばらしい活躍の数々を語り明かすって決まってんだよっ!」 「…だめだめ。オレに膝枕してもらうんだもん…。」 いきり立つ梵天丸とほたるの気の抜けた声が重なる。 煙管をくわえたままの狂と二人の視線がぶつかり合う。 どちらも譲る気は無い。 しかしこれで闘いが終るような者達ではない。 「ちょっとあんた達さっきから聞いてると私の可愛いを一人占めする気ぃ〜?」 髪を指にくるくると絡めて落ちつきのない灯がこの闘いに加わってきた。 ふーっと溜め息をつき信じられないと言う顔で一同を見まわす。 「ってそもそもはお前のじゃねーだろっ!」 「もう、お子様は引っ込んでなさい!」 「…っ!大体灯、お前は狂にぞっこんだったんじゃないのかよっ!!」 「私は強いものと可愛いものが好きなのよ!」 灯に軽くあしらわれるアキラだが引き下がる事はなかった。 そもそもこんな話題で皆が黙っているはずはなかった。 五人の中にしばしば沈黙が流れる。 お互いに睨みをきかせてこの闘いに一歩も引かない事を確認し合う。 薄暗い部屋の中に殺気が充満すると炎がゆらゆらと揺れた。 「オメーらオレとのお楽しみを邪魔するのか?」 「おめえの酒の相手なんかそのへんの女で十分じゃねぇか!」 「そうそう、オレ絶対の膝枕がイイし…。」 「私はもうに予約入れといたんだからあんたらは後回しよ!」 「こんなケダモノ達には渡せるかっ!!」 座っていられなくなり次々と立ちあがり論議は白熱していく。 気が付くと自然と武器に手が伸び刀の柄を握り締めていた。 それぞれの頭の中で色々な思いが交錯する。 事の元凶の狂は『さすがに四人まとめてはキツイな…』 とどうやって一人ずつ片付けていくか静かに考えていた。 いまいち緊張感のないほたるは『とりあえず…先回りかな…』等と 早くも抜け駆けする手順を確認している。 一番わめいている残りの三人はいまだに白熱した闘いをしている。 「約束しただとぉ?どんな約束だよ。言ってみろよ、してねぇくせによぉ!」 「ちゃんとしたわよ!『明日に渡す物があるから楽しみにしててね。』って!」 「灯!てめーを餌で釣る気かよっ!!」 「餌じゃないわよ!!これは灯ちゃんがのために丹精込めて作ったのよ!」 とどこからともなく取り出してきた物。 それは長すぎてとぐろを巻いている毛糸のマフラーだった。 何が出てくるのかと身構えていた梵天丸はその意外さに吹き出してしまった。 「だははっ!何おめえ柄にもなく乙女なことしてんだよっ笑っちまうぜぇ〜!!」 笑い転げている梵天丸に灯の怒りの鉄槌が炸裂する。 「だまれぇーっ!!」 …ベキッ、バキッ!! 笑って油断していた梵天丸のこめかみ辺りを二打錫杖で打ちつける。 怒りのオーラで髪が逆立っている灯はブンブンマフラーを振りまわしている。 「…なんでそんなに長いんだ?」 床で転がっている梵天丸から目をそらしてアキラが尋ねると 灯は『良くぞ訊いてくれた』と顔をほころばせて答えた。 「それは、灯ちゃんとが二人でも巻ける様に長くしたのよ!」 「一つのマフラーで二人?」 「そうそう。」 「…邪だ!!なんてやつっ…!!」 ……ドスッ! 今度はアキラのみぞおちに拳が決まる。 灯に軽く吹っ飛ばされ梵天丸の横へと転がっていく。 事の次第を見守っていた狂は敵が二人減った事に嬉しく思う反面 相手が鬼のようになった灯ではあまり喜んでもいられなかった。 横を向くとほたるが静かに這って外に出ようとしていた。 「おいコラほたる。テメー抜け駆けする気か?」 「…うん。」 「そうはさせねーな。」 ほたるめがけて刀を振り下ろすが難なくほたるにかわされる。 「…見つかったなら仕方がない…」 ほたるが刀を抜きそれに呼応する様にロウソクの炎が赤々と燃えた。 その頃、灯にやられた二人は置きだし、狂達と同じく刀を抜いて灯と睨み合っていた。 『『『『『…は渡さないっ!!』』』』』 その時ロウソクの明りしかない薄暗い部屋の中に真っ白な雪がちらちらと舞い降りてきた。 障子も締めきってあるので雪が入り込むはずはない。 幾分余裕のあるほたると狂が雪に気づきあたりを見まわす。 時間が経つにつれてだんだん雪が激しく降り始めた。 獣の様に毛を逆立てた灯もようやく雪に気づく。 「なんで、部屋の中に雪が降ってんの?」 「…さぁ?」 「アキラじゃねえのか?」 狂がアキラの方に顔を向けると驚いた様子で首を振る。 しかしこの謎もすぐに解けた。 「ここにいたんだ!」 明るい調子の声と共に障子が勢いよく開け放たれる。 すると雪が声の主の方へと引き寄せられていく。 いや、風が雪と一緒にその人物の方へと近づいて行くのだ。 「雪風に探してもらったらここ……だって………。」 言葉が尻切れトンボになってしまったのは この部屋の殺気だった雰囲気に疑問を感じて首を傾げていたからだ。 「……皆、どうしたの?」 「「「「「…っ!!」」」」」 「えっ?はい。なんでしょう?」 突然顔を輝かせ始めた一同にさらに疑問が深まる。 そして、自分でも意識していないのに一歩後退る。 『…来ては行けなかったのかも…。』 その判断は正しかった。 梵天丸が一番入り口に近かったせいもあってこれぞ幸いとの方へと突進してきた。 「よ〜し先手必勝ぉ!!」 「…っうえ?!」 ぶつかりそうになったところで梵天丸の肩に手を添え、 タイミングよく廊下を蹴って宙返りの要領でかわす。 相手の力をそのまま利用しては元の廊下にストンと降り立ち 梵天丸はそのまま庭の雪の中に突っ込んだ。 「よし。、オレと雪見酒だ!」 「え?ええ??」 着地したところから狂に無理矢理起こされてひょいっと肩に担ぎ上げられる。 そのまま狂が駆け出したため、風景が後ろ向きに遠ざかってゆく。 梵天丸は雪に埋もれたままもそもそ動いていたのも確認できたし、 ほたるがこちらに向かって燃えさかる刀を投げ付けるのも見えた。 その刀が真っ直ぐ狂の背中目掛けて飛んでくる。 それと同時に雪の中から生還した梵天丸がこちらも狂目掛けて沢山の雪玉を投げ付ける。 梵天丸の怪力から繰り出される雪玉に当たれば平手打ちをぐらいのダメージは負うだろう。 「狂、なんかいっぱいくるよ…!」 「…くそっ」 さすがに狂も刀を抜く羽目になり、を放り出して応戦する。 宙高く投げ出されたの所にすかさずほたるが飛んでくる。 そのまま抱かかえる形で着地を果す。 「一体どうなってるの?」 「オレ膝枕がいい。」 「?…膝枕??」 何時まで経っても降ろそうとしないほたるとさっぱり呑込めない展開に戸惑う。。 今度はこっちに梵天丸の雪玉が飛んでくるのだがほたるの炎で全て溶ける。 邪魔者のいない空間でもほたるはを放そうとはしない。 「膝枕…?って重要なの?」 「うん。とっても」 そのとき鉄壁の空間に邪魔が入った。 アキラが氷の柱でまわりの炎を消し、それに乗じて狂が飛び込んできた。 見事な連携プレイに二人の時間は終った。 おいしいところをほたるに持っていかれたので狂としては面白くない。 そこでみずちを珠梨にくっ付いているほたるに向かって撃つ。 「離れろ!みずちっ!!」 「…、巻き添えくらっちゃうね?」 「分かってるよ〜っ!!」 どこまでも能天気なほたるに少し泣きたくなりながらは風を呼ぶ。 に風の攻撃はきかない。 その事を分かっていて狂は撃ったのだろう。しかし、手は抜いていない様だ。 「風花っ!」 小雪をはらんだ風がみずちを巻き上げ一緒に空の方へと上がって行く。 その光景は天へと登っていく巨大な竜巻。 みずちはかわしたものそのすさまじい風圧は健在で結局二人とも飛ばされた。 コロコロと雪の上を転がるように着地したはもう雪だらけ。 さっぱり状況は良く分からないし何だか泣きたい気分だ。 そこに灯が駆け寄ってきた。 を助け起こしてその首に暖かなマフラーを巻く。 そしてついでに自分にもぐるぐる巻いて満足そうにの顔を覗きこんだ。 「大丈夫?」 「これは?」 「にプレゼントよ。丹精込めて夜なべしてじっくり作ったの〜!」 「わぁ、ありがとう」 すぐ近くで繰り広げられている死闘を全く無視して ほのぼのとした雰囲気で笑い合う二人。 温かいマフラーになんだか少し救われた気分になった。 「さぁ、あいつらは放っておいて行きましょう!」 「行かせるかぁ〜!!」 狂とほたるは相変わらず激しくやり合っているが梵天丸は雪を投げ終え戻ってきた。 そこに梵天丸が灯との間に手刀を下ろす。 二人を繋いでいたマフラーを切り裂いた。 マフラーは二つに分かれと灯にそれぞれ巻きついていたが 灯は二人で一つと言うところがお気に入りで夜遅くまで長くなる様に編んでいたのだ。 その苦労が走馬灯の様に駆け巡り千切れたマフラーに目をやる。 そして梵天丸にありったけの殺意を込めた目線を送る。 とのハッピーライフを汚した罪は重い。 「梵っ!!あんたよくも……!!」 想像以上に怒り狂う灯に戸惑う梵天丸はジリジリと追い詰められてゆく。 「成敗してくれるっ!!エア・バンプ!!」 「待て、そこまでするとこはねぇだろ……っ!」 「うわっ!灯ちゃん落ちついて!!」 しかし技は真っ直ぐ梵天丸とその間にいるの方へと向かって飛んでいった。 どうも理性が吹っ飛んでるらしい灯からも離れる。 庭の雪の上を転がる様にして避ける。 梵天丸の姿は見えないがたぶん大丈夫だろう。 灯はその後、斬り合っているほたると狂達の方へと突き進んでいった。 『あぁ〜もうなんなんでしょう……これ。』 灯はほたるや狂にまで掴みかかっていて二人とも必死に灯の攻撃をかわしていた。 もうはどうして良いのか分からずに雪の上にうつ伏せになっている。 悩んでいるところに微かに自分を呼ぶ声が聞こえた。 「〜。こっちこっち。」 声の方へ視線を移すと廊下と地面の間の縁の下にアキラが隠れていた。 大乱闘が起こっている庭から逃げる様にして縁の下へ滑りこむ。 「一体…どうなってるの??」 「オレにも良くわかんねー。」 うんざりした顔のアキラはしばらく事の成り行きを思い返していた。 ほたるの炎が雪を焦して行くさまを二人とも息を潜めて見守る。 外では梵天丸が復活し三人掛りで灯をなだめている所だ。 「後で、色々聞き出さなきゃね……。」 「たぶん無駄だと思う…。」 騒ぎは収まりつつあるが灯はいまだに荒れ狂っている。 狂はどうしてもと雪見酒がしたくて―― ほたるは膝枕は譲れなくて―― 梵天丸は自分の美談を聞かせたくて―― 灯は二人でマフラーを巻きたくて―― みんなと一緒にすごしたくて事件は起こったのだが アキラはそんな皆とには過ごして欲しくなくて闘っていたので―― 「まぁ、もう少しここにいろよ。」 明るく笑いかけるとも外に行くよりかは安全なので笑い返した。 「後片付け…大変そうだね……。」 「今は…考えるのよそうぜ」 |
― 迷いごと ―
クリスマスと言う事で書いてみました。
全然関係無いです(汗)
雪降ってるぐらいですかね……。
でも逆ハーのつもりがアキラ落ちに。
予期せぬ展開でした(おい)
しかもこれまた長くなって…ここまでお疲れ様です。
どうぞ、目薬さして目を大切にしてやってください(笑)
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