今日は良いことを思いついた。 最近暇を持て余していたのでこれは丁度良いだろう。 軽快な下駄のリズムと共に錫杖の軽やかな音色が響く。 目的地に着くと、まだ木の上で寝ているに向かって呼びかける。 「さぁさぁ、買い物にいきましょっ!」 朝一番。灯は真っ先にのもとに来てこう切り出した。 その日は朝から気持ちの良いくらいの晴天で出かけるには最適だった。 そしてはまだ起きてない頭で今の言葉を反芻している。 「…買い物〜??って、何買うの?」 「何って、物を買うに決まってるでしょっ?」 の頭を軽く突付きながら灯は自分の妙案に満足げにうなずく。 しかし、のまだ寝ている頭ではそれ以上考える事が出来ず、 引きずられる様に灯に拉致されていった。 これが事の始まり。 昨日から狂一行は町に辿り着けず野宿三昧。 町も無いのにどこで買い物をするのかは働かない頭で考えていた。 一方で灯は楽しそうにの手を引き連れて行く。 今にも駆け出そうかと言う勢いで引きずっていく。 灯はの事に注意を払わずに昨日通ったばかりの街道の方へ進んで行く。 途中は三度転んだ。 通行量の多い、比較的な大きな街道。 その路傍に沢山の行商人が店を広げていた。 下駄に着物、かんざし、櫛、輝かしい玉や金を施した雑貨物。 短剣や傘、そして食料品などあらゆる物がそろっている。 それが街道の木々の下に散らばっている。これではまるで市場だ。 道の反対側には茶屋もあり人々はここで一旦足を止める。 「あぁ〜なるほど〜」 「ねぇ、便利でしょ?」 転んだおかげで目が覚めたが一味違った街道の風景に感嘆の声を上げる。 その感想を嬉しそうに聞きながら灯は袖をまくる。 「さぁ、買うわよ〜!!」 ささやかな不安がの胸を過る。一体どれほど買うのだろうと。 「すごいすごい!西陣に友禅。それにクッチやテファニーまでそろってるなんて!!」 「え?!今の何て言ったの??」 「こっちの話よ。も何か選びなさいよ。」 一番近い店から徐々に捜索を開始する灯。 物を選ぶ手際の良さ。本物を見抜く洞察力。 そしてホシを手にするための恐怖の値段交渉。 全てに於いては灯について行けない。 とりあえず、は灯の荷物持ちに徹していた。 「このかんざし可愛い〜。灯ちゃんにピッタリだと思わない?」 「うん。ピッタリ。」 「この柄は灯ちゃんのために作られたみたいよね〜。」 「そうだね。なんか摩訶不思議な感じがピッタリだね。」 「このロレックズの時計安っい〜。買うっきゃないね!」 「??何それ?なんか動いてるよ?!」 「……。この下駄は買っておかないとね〜」 「え、普通に無視ですか?」 「ハイ。これらよろしくね。」 「……は〜い………。」 何を言っても無駄かもしれないという事に思い至り、 は静かに品物を受け取る。きっと何も言わない方が身の為だ。 なぜならとびきりの笑顔の後の修羅の顔をは見たからだ。 灯は営業用の笑顔を貼り付かせた店主に向き直る。 「オジさんこれで合計いくらぐらいなの?」 「うちの品物は全て出所がハッキリしてますので、金十両はもらいませんと…」 「じゅ、十両?!」 ニコニコしながら大金をせしめる気でいる店主にが素っ頓狂な声を上げる。 金の小判十枚と言えば…………良く分からない。 でも少なくとも大金でありが触った事が無いとこぐらいは分かった。 確か悪者はこれくらいをお代官様に献上するとかしないとかっと言うのを 梵天丸から聞いた気がした。 とてもじゃないが灯がそんな大金持ってるとは思えない。 むしろ、何も…持ってないような気さえする。 その事を聞いた瞬間、灯の顔は笑顔のまま一瞬止まった。 その後で引きつった笑顔が店主に詰め寄る。 「……これで十両?」 「はっ…はい。」 「このかんざし、ここ紅玉の所に傷が付いてるのに?」 の手にあった紅いかんざしが何時の間にか灯の手にあった。 そして、は見た。 自分のところからかんざしを引っ手繰るときに灯が爪で傷を付けたところを! 「あ、灯ちゃ……グホッ。」 「この着物の柄なんか二年前の物でしょう?時代遅れも良いところだわ。」 「は、はぁ〜…」 店主から見えないところで錫杖の先でわき腹を突付かれた。 よろめくに不信感たっぷりの目線を送りつつ店主は灯の言葉に相槌を打つ。 張りついたような灯の冷笑が怖い。 は黙認する事にした。 「この下駄の鼻緒なんかちょっとぐらついてません?」 「そ、そうでしょうか〜……」 灯の力をもってすれば鼻緒のぐらつきなどスプーンを曲げる事より簡単だ。 どんどんまくし立てる灯に少々店主もおされ気味だ。 「終いにはこの玉。少し軽くない?ちょろまかしてんじゃないでしょうね?」 「えっそんなはずは……」 「こっちの金細工は光り方が鈍いし。まさか混ぜものでもしてるんじゃないかしら?」 「そんな言いがかりです!」 店主の声に焦りと怒りが徐々に加わっていく。 無理も無い。すべで灯のでっち上げなのだから。 もしかしたら本当にこれらは十両なのかも知れない。 しかし灯の女王バチモードでは誰も止められない。 「こんなの三両で十分ね。もっとも、傷物や誤魔化しばかりじゃ話にならないわ!」 「何を言ってるんだ!いい加減にしろ!!うちのはきちんとした……」 「何、口答えする気?なら何も買わないわよ?!」 …ミシッ…… 湿った嫌な音がした。 と店主は同時に音がした方へ向く。 店主の右前側、の目の前、灯のすぐ隣りのケヤキの方。 その木が根元から折れた。 バキバキ… 今度は枝を折る乾いた音が聞こえるとケヤキは一直線に店主の方へ倒れていった。 「あ、危ない!!って剣?あ、荷物が!!ってどうよう?」 一瞬、自分の剣に手を伸ばしかけただが荷物を持っているので手が使えない。 うろたえるの代わりに動いたのは灯だった。 錫杖を握る手に力を込めて柄の先で木の中心を貫く。 そのケヤキが少し浮くのを確認するとそのまま体を回転させ二打三打と打ちこむ。 瞬く間に同じ所を三度攻撃され灯の四度目を受けた木は とうとうバラバラに吹き飛んだ。 「うわぁ、灯ちゃんすごい!」 「何言ってんのよ。別にたいした事じゃないでしょ。」 パンパン手を叩いている灯は事もなげに言う。 長い髪をなびかせたたずむ姿は闘いの女神か何かの様に凛としている。 助けられた店主はさっきとは打って変って灯を羨望の眼差しで見る。 「全く今度からはもう少しマシな所に店を出しなさいよ。」 「はい、申し訳ございません。」 「もういいわ、帰りましょ、。」 どうやら感動しているらしい店主を尻目に灯はもう用は無いと振りかえる。 そのとき後ろにいたと丁度目が合った。 その悪戯が成功して喜んでいる目は店主には見えていない。 ふふふっと忍び笑う声も店主には聞こえない。 このとき、は悟った。 いくら物事を瞬時に理解できないと日頃アキラに怒られようとも ここまでハッキリしていれば想像がつく。 『…ま、まさか灯ちゃん…!』 『しっ!』 「お待ち下さい!」 口パクで会話する二人を呼びとめたのは先ほどの店主の声。 相当感動したらしく姿勢を正し呼止める言葉も敬語だ。 「危ないところを助けていただき感謝しております!」 あの悪戯が成功して楽しそうな笑顔を消して灯が振り向く。 あの助けたときに滲み出た高貴なオーラをまとって店主に微笑みかける。 と同時には心の中でこの店主に手を合わせる。 なんて素直な店主なのだろうとそっちに感激し、哀れに思う。 そう、誰も女王バチには敵わない。 「是非、お礼をさせて下さい!」 「お礼って?」 「この中からお好きな物をお選びくださってもらいそれを差し上げます。」 「あら。本当?!ではお言葉に甘えて、これでいかがかしら。」 指したのは青い玉で出来たかんざし。金の蒔絵まで施してある一品だ。 この後に及んでも高そうな物をさす灯の目ざとさにあきれる。 上機嫌の店主に別れを告げ灯が戻ってくる。 無料で手に入れた戦利品を持って、こちらも嬉しそうに帰ってくる。 「灯ちゃん、仕組んだでしょ?」 「え、何の事?」 店主に聞こえないぐらい遠ざかってがさっきの事を追及する。 並んで歩く灯の目が泳いでいる。 あからさま過ぎる。 「自分で木を切り倒したでしょ?」 「だって、あの店主むかつくんだもん!」 素直に認めると袖からさっきの青い玉の付いた豪華な蒔絵付きのかんざしを取り出す。 それを手でもてあそびながら灯はを見る。 はまだ言い足りないらしくまた口を開く。 「でも、なんか灯ちゃんにしては効率悪かったね。」 「ん〜…どう言う事よそれ。」 「だって灯ちゃんならあのまま全部強奪すると思ってたし。」 「何言ってるの。全部貰ってきたわよ?」 「え?!」 またあの嬉しそうな顔での腕の中を指す。 そう言えば、まだ持ったまま返していなかった品物が両腕をふさいでいる。 「あのお芝居はこれから気をそらす為だったりして〜」 「…ドロボーだ!」 「持ってきたのはあなたよ。」 悪戯っぽく笑うとさっきから持っていたかんざしをの髪にさす。 後ろで結っている髪に斜めにささった青と金がほどよく調和する。 飾りっけの無いの唯一の装飾品とでも言うのだろうか。 だが、それだけで随分と雰囲気が変わった。 「可愛いからそれにあげる。」 よしよしと頭を撫でての顔をうかがう。 本当はこれを言いたくて連れて来たことはには内緒だ。 きょとんとしているはその次にはまぁいいかっと満足げに笑う。 泥棒のことは容認する事にしたらしい。 「これってば共犯者の印?」 今度はが悪戯っぽく笑う。 「二人だけの秘密ならそれも良いかもね。」 共犯者二人だけの特別な一日。 |
+ 迷い事 +
これは9000Hitのみけるさんからのリクエスト
『昔四聖天の灯ちゃんギャグで』
とのことで頑張ってみました。
しかし…ちょっと…難しかった(汗)
灯ちゃん君強すぎ、怖すぎ!(おいおい)
なんだか主人公振りまわされてますね。
ごめんなさい。
こんなんでよろしいでしょうか?
9000リクありがとうございましたvv
これにめげずにまたよろしくです(笑)
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